エレガント・・氏家流ウイリアムソン・・コンパクト
2009年 05月 26日
せめて、ステレオで組める規模で、パワーがとれて、音の良い真空管アンプを作りたいものです。そこで良いヒントがラジオ技術誌から得られました。温故知新的な発想ではありますが、氏家高明氏が、ウイリアムソン式の高域時定数配置を変更して、真空管にしては高帰還な約20dBのNFBを掛けたパワーアンプを次々と発表されました。
EL-34pp
高域の第一ポールを出力トランスにもって来るアイデアはずいぶん前にMJ誌で黒川氏が提唱しておられ、知ってはいましたが、トランスの高域低下特性の傾斜を-6dB/octを理想として特注し、他の位相補正は無しで20dBものNFBをかける事は、良い音の予感に満ちています。
更に、PP出力段は抵抗一本の自己バイアスでパスコン無しなので、基本的には差動出力段であり、前回述べた音質的特徴が見込まれます。ただ、定電流回路等でカソードを拘束しているわけではありませんので、「ゆるい」差動になると思われます。これは私にとって、音が良い方向に変化する気がします。
何より、位相反転段が、PK分割なので、半導体でも味わうあの二段差動の音質傾向がなくなり、これも私にとって望ましい変化となります。
6550pp
ただ、出力トランスに指定のものを使わねばなりません、ISO(タンゴ)社製のそれは以前から出ているタイプの小変更らしく、特性諸元を見てもあまり変わりがないのです。タンゴ FXシリーズは何組か手持ちがありましたので、これで試してみる事にしました。
製作の手間は普通のPPアンプと変わらず、ステレオ構成しても鈴蘭堂 SL-9 でまとめる事ができ、普通の大きさです。前段は12AU7を使いEL-34で試してみる事にしました。なんと、簡単に位相補正なしで20dBのNFがかかりました。後で矩形波特性を見ながら帰還抵抗に若干の進相補正をしましたが、それなしで、各種コンデンサーを抱かせても、SPを実装しても問題ありません。
音質は、とても素直なものでした。SPの持つ良い所や癖を私がいろいろ試して最大公約数的に感じている音がそのまま出てきます。当たり前のようで、実際には難しい事をさらりとされてしまいました。これは便利な特徴で、このアンプをつないで、SP等について感じた事はいろいろ試した上での結論と同じです。
音のくまどりの強さは標準、その描く太さは細め、高低域聴感的な強調感無しです。ただ、固有の惚れ込むような魅力には欠けます。NFBを減らして聴くと、精密感はそのままで、浮遊感のある感じの高域が乗りもっと好みです。ただ、高忠実度は下がっているでしょう。とにかくこのアンプは使えます。
EL-12pp
最小の工夫で大きな効果があり、こんなエレガントな事はありません。氏家氏のこの道に精通した達人ぶりに尊敬の念を禁じ得ません。もちろん、氏には6C33C SEPPのバランス出力を頂点とする超弩級の作品群があり、真空管アンプの世界では最も私の手本になる方です。お会いした事は残念ながらありませんが。
その後、6550,EL-12,6F6,6RA6,5998,2E22で同形式のアンプを立て続けに製作しました。わが家のシステム内に組込んで他のアンプと比較しても十分高音質を維持でき、システム全体がコンパクトにまとまるので、とても重宝しています。
2E22pp mono